言語活動の中で活用されるデジタル教科書
秋田県横手市内の全小・中学校では「学校教育の充実」の一つとして、10年ほど前から「言語活動」を中核とした授業に取り組んできました。その中で、どのように学習者用デジタル教科書は活用されているのでしょう。
生徒自身が課題を考えていく
1年生のクラスでは東海林先生が、説明文『ちょっと立ち止まって』の授業を行っていました。この日のめあては、「筆者が主張する(3つの見方)に分け、これから(大切)にしたい見方を見つけよう」です。まずは、前述の2ヶ所の( )を空欄にしておきました。指名された生徒がタブレットに保存した画面を確認しながら前時の振り返りを発表します。東海林先生は、その振り返りから本時のめあてについて考えるよう促し、生徒達がヒントを得られるよう言葉掛けし、めあてへ繋げていきます。ここには与えられた課題を解決するだけでなく、様々な観点で物事をとらえられるようになってもらいたいという先生の考えがあります。
「ふせん」で視覚的にわかりやすく
活動の前には、渡會教頭先生を題材にした練習問題に全体で取り組みます。活動内容を理解すると同時に、身近な先生を題材にすることにより、これから行う活動をより自分のこととしてとらえられるよう工夫がされていました。
生徒達はデジタル教科書で、前時にそれぞれが記入したふせんの内容を読み返し、筆者が主張する3つの見方にそってふせんを黄色、赤色、青色の三色に分類していきます。色や並べ方を途中で変更するなど、デジタル教科書ならではの機能を活用して、試行錯誤を重ねていきます。
東海林先生は机間指導を行いながら、分類に迷う生徒にていねいにアドバイスしていきます。
自発的な質問が飛び交うグループ活動で交流
個別で考えた後は10分間のグループ活動。分類したふせんをお互いに確認したり、迷っているものは相談したりしてグループで交流していきます。さらに、「この考えが変わったことはすごく面白い」「これはぜひ全体に紹介したい」というものも話し合いました。
途中で東海林先生が、タブレット端末の持ち方を工夫している生徒を全体に紹介しました。画面を相手に見やすくすることで、聞く側の生徒も自然と相手の方を向いて、グループ内で自発的な質問が飛び交う、より積極的な話し合いが始まりました。友達の意見を聞いて自分の考えをもう一度見直したり、デジタル教科書でふせんの色を何度も変えたり、文章を修正したりしてまとめていきます。
※横手明峰中学校では3年前からこのグループ活動を、学ぶ心に火を灯す「灯火タイム」と呼び積極的に取り入れています。
リアルタイムで共有し発表する
一人一人スクリーンショットを撮り、授業支援ソフトを使って全体で共有します。
色分けしたことで視覚的にわかりやすくなったふせんの画像を使って、どこに着目して分類したのかを発表していきます。画面を共有することで色分けの理由や考えが伝わりやすかったのか、頷きながら聞いている生徒もいました。
先生は発表された意見を3つの見方に分けて板書しました。
日常の生活やまわりのもの、社会の出来事を自分のこととしてとらえ、さらにクラス全体で様々な見方や意見に触れ、最後に「これから大切にしたい見方とその理由」をそれぞれがふせんに書き出してまとめました。
授業後に東海林先生・渡會教頭先生にお話を伺いました。
ICTの活用で、授業スタイルを見直すきっかけに
これまでの東海林先生の授業は生徒達が全体で話し合うスタイルでしたが、タブレット導入後は、グループ活動を経てから全体で話し合うスタイルに変わりました。グループ活動では生徒達が話し合い活動により積極的になり、交流が活発になりました。また、授業支援ソフトを使用し、それぞれの進捗状況をモニター画面に映し出すことで、生徒達が時間内で考えをまとめることにより一層意識して取り組むようになりました。新しいものを取り入れることが授業を見直すきっかけになったそうです。
「生徒達に寄り添う」の
本当の意味を知る
今回の授業では、クラスの日常から地域・環境のことまで、生徒達が身近に感じているものの「見方」の変化をテーマにしていました。東海林先生自身も、「生徒達に寄り添う」ことについて、初任者時代に抱いていた「優しくあるべきだ」という考えが、さまざまな経験や先輩の先生方との出会いを通して「優しさとは表に出てくるものとは少し違い、心の中にあるようなものだ」と気づいたそうです。
毎日黒板に登校する生徒へのメッセージを書いている東海林先生
ICT機器を一つのツールとして活用する
さまざまな場面で取り入れることができるICT機器ですが、導入当初は、生徒達がタブレットに集中し過ぎて、話し合い活動等が停滞してしまい、使用をやめようと考えたこともありました。一方で、これからの時代の学びを考えた時には不可欠なものであり、効果的に学習を進めるためのツールの一つとしてうまく活用していく必要があると考えています。(東海林先生)
ICT機器とアナログ教材の共存の中で、どのように活用することが大切かを考えることが、生徒達の深い学びに繋がるきっかけになるのかもしれません。
教師は、生徒達の将来のためICT機器を使いこなせるよう指導すること、また国語の資質・能力を身につけさせることの両立に、いろいろなアイデアをだして試していく事を求められていると感じています。(渡會教頭先生)
灯タイムでHUSTLE発する!